資金調達の方法とノウハウ【融資・銀行・保証協会・政策公庫】
2022/09/25
資金調達の方法とノウハウ
1.資金調達の種類と資金の出し手
(1)資金調達の種類
資金調達の種類は、以下の4つである。
①融資(プロパー、信用保証協会保証付、ノンバンク保証付)
②資産売却(ファクタリング、固定資産リースバック)
③出資(ベンチャーキャピタル、事業会社・個人投資家)
④知人からの調達(融資、出資、少人数私募債)
(2)資金の出し手
融資の場合の資金の出し手は、①銀行・信用金庫・信用組合(以下、「銀行」という)、②政府系金融機関、③ノンバンクがある。
2.資金調達を行うタイミング
(1)資金繰り管理の方法
企業が資金繰りをうまく回していくには、「資金繰り表」を作成するべきである。これには、「月次資金繰り表」と「日次資金繰り表」がある。
ア.月次資金繰り表
向こう6ヶ月〜1年の資金繰り予定を書く。各月末日の予想現金残高、「月末現金残高」を記載する。将来、これがマイナスとなる月があれば、早めに資金調達を行なって資金繰りを回すべきである。
イ.日次資金繰り表
月中に資金不足に陥ることも予想できるため、一日1日の資金繰りも予想したいという場合には、月次資金繰り表に加えて日次の資金繰り表を作成するべきである。これによって、向こう2〜3ヶ月の資金繰りを予想することができる。
(2)現金の残高
現金残高は、最も落ち込む月、もしくは最も落ち込む日でも、月商に比べてせめて1か月分は、保有するようにする。なお、理想は、月商3ヶ月分の現金を常に保有する資金繰りである。
3.資金調達の優先順位
融資等の方法を選択した場合の優先順位は、以下の順の通りである。
①銀行でのプロパー融資
②銀行での信用保証協会保証付融資、もしくは政府系金融機関での融資
(①ができない、もしくは調達金額が不足)
③銀行でのノンバンク保証付融資
(②ができない、もしくは調達金額が不足)
④ノンバンクからの融資、もしくは資産売却
(③ができない、もしくは調達金額が不足)
⑤知人からの資金調達
(④ができない、もしくは調達金額が不足)
4.金融機関の使い分け
(1)金融機関の種類と使い分け
民間金融機関には、メガバンク、地方銀行、信用金庫・信用組合がある。また、政府系金融機関には、日本政策金融公庫、商工組合中央金庫がある。
ア.メガバンク
「メガバンク」とは三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行のことを言う。メガバンクは、年商10億円以上の企業でないと、相手にしてもらいづらい。
イ.地方銀行、信用金庫・信用組合
地方銀行、信用金庫・信用組合は、金額が数千万円〜数億円となる運転資金・設備資金の融資だけでなく、金額が数百万円程度の小さい金額の融資も対応してくれる。
ウ.政府系金融機関
日本政策金融公庫には、①国民生活事業、②中小企業事業、③農林水産事業の3つがある。
特に中小企業にとって活用機会が多いのは、「国民生活事業」である。しかし、その融資金額には限度額があり、企業が融資を多く受けられるようにするには、日本政策金融公庫はあくまで民間銀行の補完として考えるべきである。
なお、年商が大きくなってくると(目安は5億円あたり)、中小企業事業や商工組合金庫でも融資の相談に乗ってもらいやすくなる。
(2)融資を受ける銀行の数
融資を受ける銀行はメインバンクの1つだけにするべきではない。理由は、次の2つである。
①融資の選択肢広げておくため
②銀行間を競争させるため
ア.融資の選択肢を広げておくため
企業は、新たな融資を考える時、現在、融資を受けている既存の銀行から借りるのを第一に考えるものである。しかし、既存の銀行から新たな融資が出ないのであれば、新規の銀行で融資を受けるしかない。
複数の銀行で融資を受けておき、返済実績をそれぞれの銀行で作っておくべきである。そうすることで、1つの銀行から融資が受けられない時でも別の銀行という選択肢を確保することができる。
イ.銀行間を競争させるため
銀行が他行と差別化しなければならないのは、「金利」である。銀行が融資を出したい企業であれば、銀行間で競争させることで、金利を安くすることができる。
銀行からの融資の金利を引き下げるには、以下の方法がある。
①これから受ける融資の金利を低くする
②既に受けている融資の金利を低くする
(ア)これから受ける融資の金利を低くする
新たな融資の場合、できるだけ多くの銀行から融資の提案書をもらうようにする。ここでのポイントは提案書として書面でもらうことである。
提案書としてもらえるということは、既に銀行内で事前の協議を行なっていると考えてよい。
そして、複数の銀行から提案書をもらうと、A銀行○%、B信用金庫では○%というように、金利が書いている。例えば、3つの銀行から提案書をもらい、それぞれの金利は次の通りだったとする。
A銀行 1.8%
B信用金庫 1.5%
C銀行 1.3%
ここで、A銀行やB信用金庫に対し、C銀行の提案書を見せると、どうしても自分の銀行から融資を受けて欲しい銀行であれば、金利を下げた提案を再度、持ってくる。
ただし、金利だけで融資を受ける判断をすることはせず、関係、担保の状況なども考えるべきである。
(イ)既に受けている融資の金利を低くする
この場合、既に受けている融資の金利引き下げなので、新たな融資の場合と異なり、より工夫した交渉術が必要となる。
また、交渉の仕方によっては、銀行との関係が悪くなる可能性もあるので、十分注意して行うべきである。
(3)信用保証協会付融資とプロパー融資の使い分け
信用保証協会付融資とプロパー融資の使い分けは、プロパー融資が通るなら、保証付融資よりもプロパー融資で融資を受けるようにするべきである。理由は次の2つである。
①枠の有無
②審査の厳しさ
ア.枠の有無
保証付融資には、保証枠がある。無担保の場合は8000万円、有担保の場合は2億8000万円となる。なお、保証付融資では、経営革新計画やセーフティーネット保証による別枠を取れることもある。
また、信用保証協会で目安としている運転資金の総額の目安は、月商の3ヶ月分である。
イ.審査の厳しさ
保証付融資の場合でも信用保証協会に加えて銀行でも融資審査を行うが、保証付融資では、将来、貸倒れになった時に銀行が負担するべき金額が貸し倒れた金額の2割のみの負担のため、保証審査が通ったら銀行の方でも融資審査を通しやすくなる。
将来、会社の業績が悪化して銀行のプロパー融資の審査が厳しくなった時に備え、保証枠は空けておきたいものである。
(4)プロパー融資をどう受けられるようにしていくか
ア.銀行にとって出しやすい融資で提案してもらう
銀行にとって出しやすい融資の条件は、次の3つである。
①融資金額が小さいほど良い
②返済期間は短いほど良い
③資金使途が明確であるほど良い(例として、つなぎ資金、季節資金、賞与納税資金)
イ.信用保証協会保証付融資と抱き合わせで提案してもらう
信用保証協会は、保証付融資単独より、プロパー融資との抱き合わせでの融資の方が保証を承諾できる金額を増しやすい。なぜなら、銀行が同時にプロパー融資を行うということは、銀行もその会社に対して積極的ということである。銀行がそのように前向きに評価する企業であれば、保証金額を増しやすいからである。
5.銀行からの融資の基本
(1)銀行融資の種類
銀行融資の種類には、次の4種類がある。
①証書貸付
②手形貸付
③当座貸越
④商業手形割引
ア.証書貸付
・金銭消費貸借契約書を金融機関に差し入れる。
・返済期間1年を超える長期融資利用。
イ.手形貸付
・借入用手形を金融機関に差し入れる。
・返済期間1年以内の短期融資に利用。
ウ.当座貸越
・極度額を設定してその中で自由に融資を受けたり返済したりする。
エ.商業手形割引
・取引先から受け取った手形を金融機関に買い取ってもらう。
(2)銀行からの融資の返済期間
銀行の融資は、返済期間により、「短期融資」「長期融資」の2つに分けられる。
短期融資とは、返済期間が1年以内の融資である。長期融資とは、返済期間が1年を超える融資である。
設備資金の融資の場合、設備は長い間使うため、返済期間は長く設定されるのが普通である。一方で、運転資金の融資の場合は返済期間を短く設定されることもあれば、長く設定されることもある。
(3)会社の代表者は融資の連帯保証人になる
融資を行う場合、銀行はほとんどの場合、代表者は連帯保証人となるよう要求してくる。それは、次のような理由からである。
①経営者への規律づけ
②企業の信用力の補完
③企業の財務諸表の信頼性確保
それでは、代表者が保証人となることなしに融資を受けられるのは可能なのか。それに応えるものとして、「経営者保証に関するガイドライン」が2014年2月からスタートしている。このガイドラインでは、一定の要件を企業で満たすことができれば、経営者は保証人に入らなくよい、というものである。
経営者が保証人とならなくてよい要件として、次の3つを明確化した。
①企業と経営者との関係の明確な区分・分離
②企業の財務状況・業績が良く、銀行への返済に懸念がないこと
③企業の財務諸表が正確に把握でき、適時適切な情報開示が銀行にできて、経営の透明性が確保されていること
6.銀行の融資審査のポイント
(1)銀行の融資審査
銀行の融資審査では、次のものが重視される。
①背 景 (100/100)
②決 算 書 (90/30)
③資金使途 (60/90)
④書類 (30/80)
⑤日常取引 (10/20)
⑥経営計画 (10/70)
かっこ内は、銀行の融資審査における影響度を数値で表したのもである。
左は、通常の融資審査。右は、融資が出づらい会社への融資審査。
(2)企業や代表者の背景が融資審査にどう影響するか
ア.企業の背景
企業の背景とは、銀行が融資を出せる業種か、企業が反社会勢力に関わっていないか、社会問題を起こしていないか、などである。
イ.代表者の背景
代表者の背景とは、代表者が過去に経営していた会社が銀行に貸倒れを出していないか、代表者は反社会勢力に関わっていないか、表の代表者とは別に、裏に真の経営者がいないか、いわばその事情は何か、などである。
(3)決算書が融資審査にどう影響するか
決算書の中心は、次の2つである。
①貸借対照表
②損益計算書
ア.貸借対照表
貸借対照表では、純資産が重要となる。これは、プラスの状態である必要がある。
純資産は、[総資産−総負債]で計算されるが、これがマイナスになれば、「債務超過」となる。債務超過の企業は、融資を受けるには大きく不利になる。
(ア)実質債務超過
表面上の純資産がプラスであっても実体の総資産に引き直した後の純資産がマイナスとなれば、それは「実質債務超過」と呼ばれるものである。
(イ)自己資本比率
純資産を総資産で割った比率である「自己資本比率」が高ければ高いほど、財務体質は健全と見られ、それだけ融資は受けやすくなる。自己資本比率の理想は20%以上、最低でも10%はほしいところである。
(ウ)借入金月商倍率
負債の部に計上されている短期借入金・長期借入金を合計したものが総借入金となるが、この総借入金が、月商の何倍であるか、これは「借入金月照倍率」と呼ばれる。
借入金水準の銀行からの見方は、倍率が2ヶ月以内だと、少ないかちょうどよい。2〜4ヶ月だと、やや多い。4ヶ月以上だと、多いと見られる。
イ.損益計算書
損益計算書では、営業利益、経常利益が、まず銀行に見られる。「営業利益」は企業が事業でどれだけ稼ぐ力があるか、「経常利益」は企業が継続的にどれだけ稼ぐ力があるかを見ることができる利益である。
そして銀行は、売上高に対する利益率でも、その会社がどれだけ利益を稼ぐ力があるのかを見てくる。営業利益を売上高で割った「売上高営業利益率」、経常利益を売上高で割った「売上高経常利益率」で見てくる。売上高営業利益率の理想は5%以上、売上高経常利益率の理想は3%以上である。
ウ.貸借対照表の詳細の勘定科目の見られ方
(ア)現金
・現金勘定が多いと銀行に懸念を持たれる可能性がある。
・現金出納帳も作らず、経営者がキャッシュカードを持っている場合、会社のお金と個人のお金が混同している場合が多いと見られる。
(イ)預金
・預金の勘定科目内訳書記載の各銀行の残高が、残高証明書と合っているか確認することもある。
(ウ)売掛金・受取手形
・売掛金が、月平均売上高に対して何ヶ月分の金額であるかを銀行は気にする。
・回収できない売掛金の存在や架空の売掛金を疑う。
(エ)棚卸資産
・棚卸資産の金額は、年間仕入高や年間製品製造原価を月平均にして、その何ヶ月分あるかを銀行は見る。またそれが、業界平均に比べて多いかどうかをチェックしている。
(オ)未収入金・未収収益・前払費用
・これらの勘定は、大きくなれば銀行から目をつけられやすい勘定科目である。
(カ)貸付金・立替金・仮払金
・これらの勘定は、特に銀行は注意深く見てきて、場合によっては、融資を断られる大きな要因となりかねない勘定科目である。
(キ)有形固定資産
・預金を豊富に持つ代わりに、土地・建物等の有形固定資産を多く持ってしまうと、貸借対照表において流動資産が少なく、固定資産が多くなってしまう。
・銀行の信用格付の中でもよく使われる財務指標である、【当座比率(=当座資産÷流動負債)】【流動比率(=流動資産÷流動負債)】の数値が悪くなる。
(ク)無形固定資産・投資その他資産
・本当に資産としての価値があるのか、銀行は見てくる。
(ケ)買掛金
・経営者からあらかじめ聞いていた、締め日と支払日の整合性がとれているかを見てくる。
(コ)未払金・未払費用・未払法人税等・未払消費税・預り金
・銀行は、年金・健康保険などの社会保険料、税金の滞納を嫌う。
(サ)前受金・仮受金
・銀行から突っ込まれることは少ないが、その内訳については確認しておくべきである。
(シ)短期借入金・長期借入金
・固定負債の勘定の1つである長期借入金で計上できるものを、流動負債の勘定の1つである短期借入金に計上しないようにするべきである。
・信用格付でよく使われる財務諸表である【当座比率(=当座資産÷流動負債)】【流動比率(=流動資産÷流動負債)】を良くするためだ。
エ.純資産を厚くする
純資産を厚くするには、利益を上げて配当や役員賞与で流出させず純資産の追加として残す(「内部留保」という)、もしくは意図的に資本金を増やす方法がある。
資本金を増やすことを「増資」という。
オ.損益計算書の見られ方
損益計算書で銀行から質問が来るポイントは、次のところである。
・前の期の決算書と比較して、売上高の増減はどうか。その増減の原因はどこにあるか。
・前の期の決算書と比較して、売上高総利益率(売上総利益÷売上高)の変化はどうか。その変化の原因はどこにあるか。
・営業利益・経常利益の金額の増減、売上高に比べた営業利益率・経常利益率の増減はどうか。その増減の原因はどこにあるか。
・販売費・一般管理費の各勘定科目について、増加、減少の状況はどうか。ムダな経費はないか。
(4)資金使途が融資審査にどう影響するか
資金使途とは、融資で受けた資金を何に使うか、ということである。
資金使途は、大きく運転資金と設備資金とに分けられる。運転資金とは、事業を行なっていくにあたって、必要な資金のことを言う。
一方で、設備資金とは事務所や工場、店舗などを建てるための建築資金、工場や店舗の機械設備などを購入するための資金など、設備投資を行うための資金である。
ア.経常運転資金
経常運転資金は、次の計算式で計算される。
(売掛金+受取手形+棚卸資産)−(買掛金+支払手形)
経常運転資金は、企業の商売サイクルである、【棚卸資産(在庫)→売掛金→受取手形】の間に立て替えている金額となる。
イ.増加運転資金
増加運転資金とは、経常運転資金の応用である。
売上高の増加により、売上債権や棚卸資産の増加が、買入債務の増加を上回り、経常運転資金として必要な金額が増加した等という理由から融資を受ける必要が出てくる。
ウ.つなぎ資金
・つなぎ資金は、一時的な運転資金不足を補てんするために融資を受けるものである。
・融資を受けるには、銀行に、売掛先からの入金が多く発生する日の証拠として、銀行に、売掛先からの入金が多く発生する日の証拠として、契約書や注文書、請求書の控えなどで、説明することが必要である。
エ.季節資金
・在庫備蓄・仕入などで支払いが多い時期と、販売と代金回収で入金が多い時期がはっきり分かれている業種などで利用される。
オ.納税資金
・企業が法人税を納付する時期は、決算日の2ヶ月後である。
・納税資金の融資は、通常、返済期間は6ヶ月である。
・資金使途が明確で、税金の支払いが多い企業は利益の出ている企業であるから、銀行の審査が通りやすい形態の融資となる。
・消費税支払いのための場合は、融資を出さない銀行が多い。
カ.賞与資金
従業員にまとまった賞与を支払うと、手もとの現金が少なくなる。それを防ぐために受ける融資を「賞与資金」と言う。
キ.ハネ資金
・資金使途として表向きには認められない。
・長期返済の証書貸付として融資を受けたものの、毎月の分割返済により現金が減少、つまり返済の元手の減少が進んでおり、そのまま返済を続ければ現金が尽きてしまう、そのような企業に現金残高を回復させるよう融資を行うものである。
・経営計画書により、将来の利益が増え、キャッシュフロー内で返済ができるようになることをアピールする。
ク.後ろ向き資金
・最も審査が通りにくい。
・企業の穴埋めをする資金、過剰な在庫が発生したことにより必要となる資金、売掛金・受取手形などの相手が倒産するなどして回収できなくなった時に穴埋めする資金のこと。
・無担保の場合は、融資審査を通すのに銀行は躊躇する。
ケ.設備資金
・設備資金で融資を受ける場合、1年を超える長期返済での融資となる。
・設備を導入すると、毎年減価償却を行うことになるが、減価償却は現金の支出を伴わない費用である。つまり費用となるが、そのぶん現金流出がなく、それを設備資金で受けた融資の返済資金に充てる、という考え方をとると良い。
・設備資金を申し込む場合、銀行にその設備の見積書を提出する必要がある。さらに、設備導入の理由も説明する必要がある。
・設備を購入した先から受け取った領収書を提出しなければならない。
・運転資金より設備資金として融資を受けるほうが、より長期の返済が受けやすい。
・運転資金として短期返済で受けた融資を設備に使うと、資金繰りが苦しくなる。
コ.投資資金
投資資金とは、事業を拡大していくために使われる資金のことで、次のようなケースがある。
・新事業展開のための資金
・地方・海外へ進出するための資金
・新聞屋進出のための子会社設立、買収に当たり必要となる資金
投資資金として融資を申し込むには、投資する事業の計画がいかに銀行を納得させられるかがポイントとなる。そのため、事業計画書の作成は必須であり、次のようなポイントを考えて作るようにすべきである。
・投資を行う事業が、すぐに利益が出るか、数年で利益が出るようになり、その企業の利益拡大にプラスとなること
・投資を行う事業が、企業の既存部門の足を引っ張ることなく、既存部門と相乗効果を発揮すること。
(5)銀行に提出する書類が融資審査にどう影響するか
銀行で融資審査を行う時、色々な書類を銀行から要求される。要求される書類は次のとおりである。
①決算書
②試算表
③月次資金繰り表
④経営計画書
⑤会社案内や商品・製品のパンフレット
ア.決算書
・決算報告書だけでなく、それに付随する確定申告書、別表、勘定科目内訳書なども要求される。
・法人確定申告書の右下の税理士署名欄に、顧問税理士等の名前がないと、税理士が作った決算書とは見られず、決算書の信憑性が一気に下がる。
イ.試算表
・試算表は、途中経過を表したものである。
・前の決算月から3ヶ月以上経過すると、銀行は今期はどのような損益なのか、最新状況を知ろうとする。そのために試算表を要求してくる。
ウ.月次資金繰り表
・月次資金繰り表とは、将来6ヶ月〜1年後までの、毎月の資金繰り予定を書いたものである。
・将来の資金繰りは、まずは経営計画を作り、1ヶ月ごとの損益の計画を立て、その入金予想と出金予想をもとに作る。
・資金繰り表は、次の3つの部に分かれる
①経常収支(事業自体でどのような資金繰りとなったかを表すもの)
②設備収支(設備投資や、設備の売却により、現金がどう動いたかを表すもの)
③財務収支(銀行など外部からの資金調達と、融資の返済による資金の動きを表すもの)
・理想的な形は、経常収支のプラスの範囲で財務収支のマイナスを補っている状態である。
エ.経営計画書
・利益を出し、キャッシュフローを返済原資として返済を進めていくことができる、それを銀行に納得させるために、経営計画書が必要になる。
・銀行は、企業のキャッシュフロー、つまり事業でどれだけ現金を稼ぐかを、簡易的に【当期純利益+減価償却費】で計算する。
・経営計画の骨子は、次の3つがあれば出来上がる。
①年次損益計画
②月次損益計画
③アクションプラン
プラスで、次のことも盛り込むと、より充実したものとなる。
④経営理念
⑤将来の方針(事業展開の方法、数年後の売上・利益の目標を踏まえながら)
⑥今後の具体的な戦略(経営環境の分析と方向性の決定)
⑦今後の具体的な戦術(戦略をどのように実行していくか)
オ.会社案内や商品・製品のパンフレット
会社案内の内容には、次のようなものを記載すると良い。
・会社概要(所在地・設立日・資本金・年商・営業種目・代表者)
・事業概要(事業内容、取扱商品・サービス、強み)
・会社沿革
(6)日常取引が融資審査にどう影響するか
融資以外にもその銀行との取引が多くあれば、融資審査のプラス材料となる。
具体的に銀行書にする日常取引のポイントは以下のとおりである。
①企業がその銀行に預けている預金額(融資量とともに、預金量が多いほど、銀行にとってその企業と取引することによる採算が良くなるから)
②手数料(振込手数料、手形取立手数料、インターネットバンキング手数料など)
③付随する取引(公共料金や保険料、各種会費などの振替口座にする)
④関係会社や従業員などとの取引(銀行は、本体の会社とともに、関係会社との融資取引や預金取引を期待し、各種手数料も落としてくれることを期待する)
7.銀行の融資審査を通しやすくする方法
(1)債務者区分を良くする
債務者区分は、正常先・その他要注意先・要管理先・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先に分けられる。債務者区分があって、その下に、銀行独自で融資先企業につけている信用格付がある。
債務者区分を良くするためには、まずは、自分の会社が銀行からどのような債務者区分をつけられているか、把握するところからスタートする。
そして、債務者区分が悪ければ、どうやったらそれを良くすることができるのかを知って、その行動をとるべきである。
ア.自社の債務者区分を聞く
・理由とそれを聞いてどう活かしたいか、を伝える。
イ.債務者区分を良くするためにどう行動すべきか
・債務者区分は、次の2つで判定される。
①融資の状況
②企業の状況
(ア)融資の状況
・リスケジュールや延滞等となっていれば要注意先以下となる。
(イ)企業の状況
・損益計算書が赤字、貸借対照表が実質債務超過などであれば要注意先以下となる。
・赤字が一過性であったり、次期決算で赤字解消が確実であれば、正常先に引き上げてもらえることがある。そのために、説明資料等を作成して銀行にアピールすることが、企業の取るべき行動である。
(2)銀行とのコミニュケーション
銀行には本部と支店がある。さらに支店の中は、次の3つの係に分かれている。
①預金係(中で出納や振込事務などを行う係)
②融資係(融資係とは、支店の中で融資審査を行う係)
③得意先係(外回りであって、要は営業の係)
それぞれの係に係長があり、その上が次長、支店長、という支店内の構造になっている。
ア.支店長とのコミニュケーションの取り方
・決算の度に、決算説明をする。
・多くのことをアピールする絶好の機会。
・企業が自主的に行うものである。
イ.融資係とのコミニュケーションの取り方
・3ヶ月に1回は、会社側から訪問するべきである。
・訪問の名目は、試算表や資金繰り表などを渡す、ということにする。
・会話の中で経営計画書なども使って、会社の将来のビジョンを語れば、好印象に繋がる。
ウ.得意先係とのコミニュケーションの取り方
・1ヶ月に1回訪問してくるようにするべきである。
・銀行員が訪問する名目を作る。その名目は、「1ヶ月に1回、試算表を取りに来て」これで良い。
(3)関係会社がある企業
・実質同一体の関係にある会社は、銀行は1つの企業として判断する。
・実質同一体と見られやすいケースには次のものがある。
①A社とB社の代表者が同じ
②A社の代表者と別の家族がB社の代表者をやっている
③A社とB社の本社の住所が同じ
④A社がB社の株式を多く保有している
⑤A社の大株主とB社の大株主が同じ
⑥A社とB社の間で、資金の貸借を多く行っている
・実質同一体と見られると、関係会社の決算書を要求されることがある。
(4)個人事業主は法人成りしておく
・法人にすると、決算書を1年に1回作ることになる。そこには、法人としての業績や財務内容が表される。
・法人の方が、経営者個人の会計と法人の事業との分離が明確であり、銀行は、法人の決算書の方を信頼しやすい。
8.信用保証協会付融資
(1)信用保証協会保証付融資が受けられる企業の要件
ア.企業規模
・製造業等は、資本金3億円以下、従業員300人以下。
・卸売業は、資本金1億円以下、従業員100人以下。
・サービス業は、資本金5000万円以下、従業員100人以下。
・小売業は、資本金5000万円以下、従業員50人以下。
・医療法人等は、従業員300人以下。
イ.所在地
各地方の信用保証協会の管轄地内に、法人の場合は本店または事業所のいずれかを、個人事業主の場合は住居または事業所のいずれかを有し、事業を営んでいることが必要である。
ウ.業種
農林・漁業・遊興娯楽業のうち風俗関連営業、金融業、宗教法人、非営利団体(NPO法人を除く)、その他信用保証協会が支援するのは難しいと判断した場合には利用することはできない。
なお、許認可や届出等を必要とする業種を営んでいる場合は、当該事業に係る許認可等を受けていることが必要になる。
(2)信用保証協会保証付融資で受けられない資金使途
信用保証協会の保証が受けられる融資は、企業必要な事業資金に限られ、次の場合は受けることはできない。
①転貸資金
②子会社設立のための株式引受資金
③旧債振替資金
④事業外の資金
(3)信用保証協会付融資の申込み方
・申込み方法は、銀行に直接申し込む方法と信用保証協会に直接申し込む方法がある。ほとんどの場合は、銀行に直接申し込む。
・保証してもらう場合、保証料を信用保証協会に支払わなければならない。
・保証料は、「CRD」という格付により決まる。
・CRDは、倒産リスクを計算して9段階に分かれる。
(4)保証を断られるケース
はじめて信用保証協会に保証を申し込んだ場合、信用保証協会の職員が企業に訪問してくる。
また、はじめての面談で信用保証協会が保証を出さなければ、その審査の履歴が信用保証協会に記録される。審査が通らなかった理由によっては、今後のその会社は、二度と信用保証協会の保証を受けれないかもしれない。そうならないよう、信用保証協会の訪問時に企業は万全の体制てわ臨むべきである。
次は、決算の内容が特に悪くなくても保証が受けられないケースで良くあるものである。
①代表者が名前だけの代表である
②既に保証付融資を受けている会社の関係会社
③代表者の個人信用情報に傷がある
④債権譲渡等機が存在する
(5)信用保証協会とのはじめの面談
ア.面談の書類
・本社の事務所で事業をしている証拠となる資料
(事務所が賃貸の場合、賃貸契約書。自社所有の場合、不動産登記簿)
・代表者が自宅に住んでいることが確認できる資料(自宅が賃貸の場合、賃貸契約書。自己所有の場合、不動産登記簿。また、自宅の公共料金の請求書)
・会社の預金口座の通帳1年分
・仕入先や外注先からの請求書
・決算書
・直近の試算表
・総勘定元帳
・建設業などでは、受任状況の一覧
・許認可が必要な業種の場合、許認可証
イ.面談の質問事項
・保証申込窓口となった銀行との取引のきっかけ。融資を相談したきっかけ。
・代表者の略歴。なぜ会社を立ち上げたのか、どういう経緯で立ち上げたのか。以前、どんな仕事をやっていたのか。
・配偶者、親、兄弟は何をやっているのか。家族が別に会社を経営している場合、その会社との関係はどうか。取引はあるのか。
・代表者は他の会社の代表もしくは役員をやっているのか。
・事業の内容はどうか。
・会社の特徴、売りは何か。
・本店登記の住所はどこか。その場所となった経緯はどうなのか。
・事務所が賃貸の場合、家賃はいくらか。
・預金口座の通帳の内容。
・税理士が最近変わっていれば、その理由は何か。
・売掛先からの入金がないところがあるのか。入金先の預金口座はどこか。回収が長期化しているのはあるのか。
・決算書の内容の詳細
・回収の締め日・回収日、支払いの締め日・支払日
9.政府系金融機関
(1)政府系金融機関の位置付け
政府系金融機関と民間金融機関、この大きな違いとは、営利を目的とするかどうかである。
政府系金融機関の位置付けは、民間金融機関を補完することである。そのため、銀行のプロパー融資が受けられない企業が、信用保証協会保証付融資と政府系金融機関の活用を考えたいものである。
(2)日本政策金融公庫・国民生活事業での融資審査
日本政策金融公庫の国民生活事業では、融資限度額は基本7200万円、うち運転資金は4800万円である。
ただ、どのような会社でも限度額いっぱいまで融資が受けられるわけではなく、財務内容や業績、売上規模などにより、融資審査がなされて金額が決まる。
融資を受ける会社において、融資残高2000万円となる融資までは支店で決裁されるが、それを超えると本部決裁となり、要求される書類も多くなる。
日本政策金融公庫に融資を申込むと、1週間後あたりに公庫との面接日が設定され、経営者は公庫に訪問することになる。その時に、次のような書類を持参するよう言われる。
①決算書
②試算表
③税金の領収書や、納税証明書
④会社の預金口座通帳と経営者個人の預金口座通帳、1年分、取引でよく使用されるものを持ってくるよう言われることが多い
⑤会社や代表者個人での借入金の返済予定表や借入残高が分かるもの
⑥会社や代表者個人で所有している不動産の固定資産税課税証明書
⑦許認可が必要な業種であれば許認可証
10.ノンバンク
ノンバンクは、できるだけ使わないことに越したことはない。しかし、決算書の内容が悪いなどで、銀行のプロパー、信用保証協会保証付融資、ノンバンク保証付融資、または政府系金融機関融資が出ない場合、どうするべきか。
この場合、次のような順で行動するべきである。
①まずはリスケジュール
②リスケジュールを行ったら、ノンバンクで立て直し資金を確保する
③ノンバンクは会社で借りるより、個人で借りることを優先する(理由は、会社で借りると、決算書に付随する勘定科目内訳書の中の、借入金の内訳で、ノンバンクから借入れしていることが掲載され、銀行等は、ノンバンクから借入れを行っている企業を厳しく見るものだからである。)
④ノンバンクの無担保融資
⑤ノンバンクによる有担保融資
ノンバンクの無担保融資を受けるにあたっては、個人信用情報が大きく影響する。
個人信用情報は、3つある。「全国銀行個人信用センター」「CIC」「日本信用情報機構(JICC)」である。
個人信用情報機関で掲載される情報には次のようなものがある。
①氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、勤務先、勤務先電話番号、運転免許証の記号番号
②金融会社名、融資の形態、融資実行日、融資金額
③返済日、融資残高、完済日、延滞状況
④債権回収、債務整理、保証債務履行、強制解約、破産申立、債権譲渡
⑤融資の申込情報
11.その他の資金調達
その他の資金調達の方法は、次のようなものがある。
①ファクタリング
②固定資産リースバックス
③ベンチャーキャピタルの出資
④事業会社・個人投資家による出資
⑤知人や親族からの資金調達
(引用:書籍:『中小企業経営者のための絶対にカネに困らない資金調達バイブル[著]川北英貴)』)
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